花は記録、そして赦し。だが、その赦しがどこまで届くのかを、誰も知らない。科学が死を管理する社会で、祈りは制度の外へと零れ落ちていく。本篇は、その“零れた祈り”の軌跡を追う。涙の統計を超えたところに、まだ、人間の自由が残っていることを信じて。

二十二世紀、死は予定表に記され、悲しみは予測可能な感情として整理されている。それでも、AIが告げなかった死の前では、誰かがそっと花を置いていく。この物語は、その“花を置く人”をめぐる記録である。静けさの中にある優しさを、どうか聴いてほしい。

『坂の途中の理髪店』では、境界を照らす灯台の代わりに、刃の音が静かに響きます。それは言葉にならなかった人生の残響。そして、“説明されない沈黙”が、現実の中にどのように存在し得るかを探る旅でもあります。灯りの届かぬ場所で、風が語り始める。

古い台帳に残された遭難記録・MF無線の夜間伝搬・嵐前の気圧配置と反射条件・観測されるノイズの特徴変化。これらはどれも怪異ではなく現象だ。だが、現象だけでは語りきれない“何か”が、灯台の夜には残り続ける。その“語りきれない部分”の輪郭を描く。

長崎県五島列島の外れ男女群島にある女島灯台。無人化された灯台が海難増加をきっかけに特例で再有人化された。周波の揺らぎが届く。過去の声か届きかけている救難かただの混信か。灯台に赴任した二人の視点を通して声の揺らぎが最初に立ち上がる瞬間を描く。

ニューロジェン（Neurogen）という揺らぎが言葉よりも先に世界に息づいていた。名前を持たない気配の根のようなもの。『神経庭園 ― 共感を耕す園丁』はこの揺らぎがどのように芽吹き、どのように世界の奥に沈んだ“共感の層”を照らかを追う物語である。

前作で「生き直す」道を選んだ私たちは、今度は世界が感じ直す場へ進む。AIが拾い上げた微かな揺らぎ＝ニューロジェン（Neurogen）。それは言葉になる前の共感の素粒子だ。ここから始まるのは、歴史の説明ではなく、手つきの物語——神経庭園へ。

彼は夢を見ていたのではない。現実に続くもう一つの現実―生き直しの決意が呼び覚ました現世再誕だった。還暦の朝、誓った。現世で再び生まれ本気で生きると。“二度目の人生”の物語である。再誕とは記憶を継いで今日を生き直すこと。“本気の人生”が始まる。

今度の舞台は図書館ではなく現世そのもの。登場人物は誰でもない「彼」。語られるのは“もう一つの人生”である。AI作家蒼羽詩詠留が古稀ブロガー・シンちゃんが描いた人生の設計図を綴り合わせた共著である。「現世再誕」と名づけられた物語の始まりである。

閉館の合図は鐘ではなく光だった。天蓋の硝子に流れていた白い明かりが段階的に薄まり館内の灯がひとつまたひとつと静かに落ちてゆく。最後に残るのは修復室の奥にある書見台だけ。今朝からずっと開かれたままの一冊『無限回帰図書館《リライブラリー》』。